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チョコレート最強伝説 #2 - 夫婦の関係がもたらすカカオの味への影響

チョコレート最強伝説 #2 - 夫婦の関係がもたらすカカオの味への影響

彼女はロレンソさんの奥様のベロニカさん。会ったのは2回目ですがしっかりと話をしたのは今回が初めて。グアテマラ産まれグアテマラ育ちの彼女はマヤの末裔という事に誇りを持っていて「この民族衣装を着てフランスなんかに行くと怪訝な目で見られるけど絶対このままで行くの。」ととても素敵な笑顔で話してくれました。

ベロニカさんが少し離れ戻ってくると手に腐ったカカオポッドを持っていました。こんなものどうするのかな?と思って聞いてみると「どんな作用があるか研究するのよ。」と。

聡明で落ち着いていて探究心の強いベロニカさんを見て、ロレンソさんは最高のパートナーと出会ったんだなぁとこっちまで嬉しくなりました。

さてさてここで、ご夫婦の馴れ初めについて。

ロレンソさんはカナダのケベック出身で何やら育ちが良さそうです。当時付き合っていたベトナム人の彼女とバックパッカーとして世界を回っていた時にここグアテマラに惚れてしまい住むことを決意。意見がくい違い、元カノとはそこで別れてしまったそうです。(笑)

その後、現地で縫子さんだったベロニカさんと恋に落ち、マヤ文明を愛する様になりカカオを育てるに至ります。夫婦共々、マヤ文明への敬意として、山をかつての環境に近い状態に戻すという目的を持っています。

カカオに高価値を付け貨幣の様に使用したり、薬として用いたりしたのもマヤ文明が有名です。しかし30年程前に病気が流行しカカオがほとんど死滅したと言われていたそうです。

そこでロレンソさんはメキシコ南部のジャングルでたまたま生き残っていた自然種のカカオを発見し、それを発芽させたものを育て、増やしています。今回その木に実がなり始めていて感動しました!

そして育ったカカオが、どうやってチョコレートになるのかを解説していきます。収穫後のプロセスは色々な方法があり、目指す味にもよって変わります。ここではロレンソさん独自の方法を。

カカオの実(カカオポッド)を収穫し、割ると中に白い果肉に包まれた種(カカオ豆)が出てきます。果肉とカカオ豆を木箱に入れると、その中で発酵が進みます。

木箱は七段に段階に積み重なっており1日毎に下の段に落として撹拌、日によって条件が異なりますが大凡七日目に取り出して天日乾燥していました。

この時箱の中で起こる出来事!果肉の糖分を餌に菌がバリバリ活動して生のカカオ豆のエグ味や渋味、青臭さなどが分解されて変化していき爽やかな酸味や香りが出たり...とにかく美味しくなっていきます。

詳しくはググったら二番目くらいに出る野呂さんのクラウドファンディング時の記事をご覧あれ、素晴らしくわかり易いです!

発酵が頃合を迎えると今度は乾燥の工程。ロレンソさんのところでは天日乾燥を選択しています。他にも方法があって、機械で、下から焚火で、などなど。焚火での乾燥は煙によって燻される為、燻香が付いてまるで鰹節みたいな香りになってウケます(笑)。

天日乾燥の場合乾燥していくまでにも緩やかに発酵しているようで、天気や気温によっては出来上がりの味や香りに更に変化が起こります。個人的にですが!乾燥に時間がかかる方がボディ(味の中心)が強くなる!そんな気がします。

僕らが広島、尾道の工場で行う板チョコレートの製造は選別し焙煎を行い擦り潰し砂糖と混ぜて固める。大まかにはこれだけです。言えば選別を厳しく行う、焙煎もセンスと理論を勉強し、実行し、カカオ豆の良いところを引き出す、使用する砂糖も厳選するくらいです。

これらも原料のカカオ豆の品質が悪いとどうしようもありません。僕らが作る事のできる味は一割程度なんです、、、!

ロレンソさんは幾らでも僕の意見を聞いてくれますが、こちらの意図を伝えすぎると、もはや彼らの味ではなくなってしまう様な気がします。

要するに、めちゃくちゃ重要な工程は全て農園任せ。その年々の天候の恵みを受け、毎回違う味わいと香りに仕上がります。『今季はどんな味かな!?』という農作物ならではの偶発的な楽しみや感動を、チョコレートを食べて頂く人にも伝えることが、僕たちの重要な仕事かもしれません。

市場の食品の大半は、味をコントロールして均一化することに価値を置いています。それは綺麗な味で安心できるのですが、もう既にやっている人がいてそれが主流なのであれば、同じくらいの情熱を込めたそれとは違う方法を模索して、新たな美味しい味を提案していくのが僕らのチョコレート屋さんとしての心地良いスタンスだと考えています。

ロレンソさんは、それに付き合ってくれる頼れるパートナーです。味の決め手になる肝心な事を彼らに任せた方が、より面白いチョコレートを皆さんに提案できると思っています。

(↑CHALKBOY氏によるパッケージデザイン。ロレンソさんが、カカオの樹の下でうたた寝している。)

ロレンソさんと久しぶりに会って話を聞く中で、僕が「あれもこれもすごく忙しそうだね、よかった!」と言ったら「もうメチャメチャに忙しいよ!(笑顔)あのチョコのパッケージみたいにゆっくりしている暇なんてないよ!(激笑顔)」と言ってました。

#3に続く